パーティーは当然のようにすぐさま取りやめられ、部屋に押し込められた。
決意をしてからは早かった。
メイドさんを呼んで、怯えたふりをして、情報を少しずつ引き出すのは思っていたより容易かった。
騙しているという罪悪感には襲われたが、それでも得たものは多かった。
『黒の使者』の、情報。
何時間かした後に引きずり出された時に無理やり飲まされた解毒薬は、酷く苦い味がした。
彼が血を吐いた即効性から見たって、毒を飲んでたらとっくの昔に死んでるのに…そう思いながらも、口にはしなかった。
まるで全てを知っているかのように状況を説明する人達に、徐々に怒りが湧いてきた。
何で。
何も、知らないくせに。
あの人の蒼色の悲しい目も
あの笑みも
何も、知らないくせに。
こみ上げて来た涙を薬の苦さのせいだと言い聞かせて、顔をくいと上げた。
少しぐったりとした父である王と、その隣に立つ銀髪の細めの男を見上げた。
男の髪の色は、『彼』とは全く質の違うものだった。自ら脱色していたと言っていたし、銀というより白の方が近い感じがした。
「それでな。先の会議で、姫様を来週にも嫁がせる事に決定したわ。」
さらりと言われたその言葉を、さらりと受け止める自分に嫌悪を感じた。
自由があれば責任があり、拘束があれば安全がある。
何十といわれてきた言葉が頭を掠めた。
安全のために拘束されつづける自分が、酷く醜くすら感じた。
「この国の警備じゃ限界がありますねん。隣国の第一…って、会うた事ありましたね。」
頷いて、ほんの少し視線を落とした。
こんな時ですら、勇気が出せないのだろうか。
悔しくて、仕方なかった。
「急やけど…ともかく、身支度をしはじめてもらわなあきまへんね…。」
かすかに唇を噛んだ。
あの時の感触が蘇った。
冷たい目と、悲しい目と、優しい目と…変わらない表情の中で色を変える、あの瞳。
硬い笑みを崩す事はなかったけれども。
あたしは
あたしは、初めてのあの感情を捨ててまで、平穏が欲しいだろうか。
口には出さずに星空に求めつづけていた、あの甘美な感情を得たのに
雁字搦めに縛られて、何も感じない口付けが欲しいだろうか。
「い、やです」
気付けば、前を見据えてそう口に出していた。
彼の事を知らない。
彼の事を知りたい。
私を殺しにきた、彼の事を。
急に冷気が正面から吹き込んできて、思わず腕をさすった。
父の隣に立つ男が、笑みを深くしたのが見えた。
「何故?」
それに怯みそうになる自分に、負けるなと叱責をした。
「私は、契りを交わしました。」
そう、口付けという名の契りを。
ざわりと、祭司達がざわめいた。
「二人の男性と契りを交わすわけにはいきません。」
彼はきっと、こんなこと欠片も知らなかっただろう。
しかし、この国の宗教では、口付けは婚姻の契りと位置付けされている。
男は、また笑みを深くした。
纏わりつくようなひんやりとした空気が、また流れ込んだ。
+『Which is better?』+
+戻+
::後書::
一人称視点で書けるのでこのシリーズは書きやすいです…。
ものすごい悪役っぷりを発揮する人が一人。
一つの決意。