「『黒』サーン。生きてまスか?」

 『紅』のふざけた敬語で目がさめた。

「紅…お前、なかなか良い度胸だな。」

 思ったより言葉は流暢に話せた。
 ほんの少し舌がピリピリする感触はあったが、大して気になる程でもなかった。

「おお。生きてる生きてる。さすが、物凄い生命力っスね。」
「嫌味か」
「勿論。」

 『紅』は、俺よりも随分と後に拾われた。
 俺は2歳の時に拾われ、『紅』は15ではなかっただろうか。
 入った歳の差は大体7年ぐらいだろうか。黒の使者内では経験の差の方が重視されるために、形ばかりの敬語を使う。

「『藍』サーン。『黒』サンが起きましたよ。」

 その台詞を聞いて、舌打ちをしたくなった。『藍』が居るのか。
 間の抜けた返答の後に、カーテンを開けて『藍』が現れた。

「おはよう、『黒』。」

 黒い笑顔、と会った時からずっと思っている笑顔だった。
 優しい空気が、また棘を醸し出している気がしてならない。
 どうしても好きになれなかった。

「任務失敗、だね。」

 にこやかな笑顔にゾクリとした。

 任 務 失 敗 。

 その言葉は、黒の使者の中では恐ろしい程の重みを持っていた。
 任務失敗。
 それはイコールで戦争に繋がる。

『世界の為に、奴等を壊せ。』

 幼い頃から刷り込まれてきたその台詞が、殺しを正当化させる偽善であることは承知していた。
 しかし、その分それが事実であるということもわかっていた。

「まさか、君が失敗するとはね。…正直、思わなかったよ。」

 上半身を起こそうとしたが、体が動かない事に気が付いた。
 舌が麻痺していなかったので毒もとれたかとおもったが、そうでもなかったらしい。

「……。」

 大きな犠牲を出さない為には小さな犠牲は厭わない。
 それが正義であるか、その対であるかをハッキリさせようとは思わないが、正義であると素直に信じる気はさらさらなかった。

「さぁ、選択の時間だよ。」

 にこりと『藍』は微笑んだ。








「殺すか、死ぬか。」








 残酷なその二択を鼻で笑った。
 答えなど、一つしかないというのに。








+『What is your name?』+





::後書::

ちなみに紅は「クレナイ」読みで。
赤と紅って物凄いカブってる気がしますが気にしない。
そして藍ってそのまんまやん。(笑

どっちが良い?