何から始めようか。
どうしても入るといって聞かない警備員やばあ様を追い出して、一息つきながら考えた。
問題は、どのタイミングで死ぬか、だ。
ふぅっと大きく息を吐き出した。
黒の使者に狙われた。その時点で、あたしは『世界に害成すもの』に任命されたも同然なのだ。
世界に戦争を起こさない為の組織、黒の使者。
その中で二度目の暗殺に失敗すれば死という掟があると、あの召使いは熱心に語っていた。
彼がまた来てくれるかどうかは解らないが、どちらにしろあたしは死ぬ必要があるのだ。
世界の為に。
民の為に。
多くの、命の為に。
そして…貴方の為に。
怯えなど微塵も無かった。もう泣かない。泣くものか。そう心に誓う。
絶対に、泣かない。そんな事を考えていると、窓側で音が鳴った。
台風が来そうな強風が吹き荒らしている事を思い出す。何かが飛んできて、窓が割れたらどうしよう。
そう思って、窓の方へと近づいた。
其処に、彼は立っていた。
何で。
思わず唇が動く。
ついさっき決めたばかりなのに、涙が溢れてくる。ぽろぽろ。ぽろぽろ。
何であたしはこの人に関係することだと、こうも涙腺が弱るんだろうか。
コ ロ シ テ ク ダ サ イ 。
嗚呼、あたしは、あたしは、この人に殺されたい。この人に息の根を止めてもらいたい。
歪んでいる筈のその欲求は、あまりにも素直に浮かび上がった。
自分で切るよりもきっと、楽に殺めてくれるだろう。
ゴーグルのせいで、彼がどんな表情をしているのか酌み取る事が出来なかった。
「…目、見せて下さいませんか?」
あの碧い目が見たいと、素直に思った。
貴方の哀しくて優しい目を見たい。
貴方の光り輝く銀色の髪を見たい。
欲求が溢れ出す。
ふと、冷静になって彼がそう簡単に姿を現せられないことを思い出した。
「大丈夫です。この部屋にカメラはありません。」
彼の唇が微かに戸惑うように動いたような気がした。
「…この国では、王家の裸を見ることは殺人と同値の罪ですから。」
彼は何も語らない。
聞きたいのに。聞きたいのに。貴方の世界を変える声が。
「何なら、ここで私が裸になれば…例え誰かがカメラを仕掛けていようとも、公には出来ません。」
正気の沙汰じゃない、と最後の理性が叫んだ。
やめろ。やめておけ。お前は−
その言葉も彼の声にかき消された。
「…別に、顔が割れるのを恐れたわけじゃない。」
優しい声
ぶっきらぼうで、繊細で
綺麗な色をした、彼の声。
引き剥がされるように取られたゴーグルの下から現れる、彼の碧い瞳。
吸い込まれそうな
綺麗で、優しい彼の目。
世界が満ちてゆく。
あたしの世界で抱えきれなくなった「彼」が、雫となって目から溢れ出してくる。
嗚咽が漏れ出す。
15年間、溜め込んでいた涙なのかもしれない。
心音が五月蠅すぎて、もうとうの昔に思考は麻痺していた。
ふと、彼の瞳が虚ろった。
彼の唇が、微かに動いた。
唐突に、毒の味を思い出した。
そうだ。
無茶な思いつきだったのに、疑いもしなかった。
あの唇に触れれば、死ねるんだ。
殆ど何も考えないうちに、唇を重ねていた。
+『Robot that began to move.』+
+戻+
::後書::
キャー…何これ。(滝汗)
万歳迷走!
読んでる方々に本当に色々伝わっているのか物凄い疑問です!!(涙)
私は今、幸せです。