001.ほおづえついて

 今日も彼は 不満げに 眉間にしわを寄せて 頬杖をつく。
「日番谷君 眉間にしわよせる癖 やめたらいいのに。」
「やめようと思ってやめられたら 癖って言わねぇよ。」

 まぁ それが彼なのだと言われたら反論は出来ないけれども と考えながら雛森はくすりと笑った。

「やめた方が モテるのに。」
「興味ねぇよ。」

「日番谷君にも いつか彼女とか出来るのかなぁ…。」
「何で死んでまでして女に振り回されなきゃいけねぇんだよ…。」

 勘弁してくれ と 吐き捨てるように言った言葉は 彼なりの優しさだと知っているからこそ 雛森はまた笑った。

「私にも いつか出来るのかなぁ…?」
「無理だろ 莫迦桃には。」

 ていうか そんなヤツが居たら多分 考える間もなく殺してる。そう思った言葉は勿論飲み込んで 日番谷は憮然とした表情を繕い続けた。

「いつまでも 日番谷君の側にいるのかなぁ?」
「それで良いんじゃねぇの?」

 貴方の何気ない一言で ここまで満たされるのだから不思議だ と 雛森は笑いながら思った。

「そうだね。」
「…どうしたんだよ 雛森。なんかお前今日おかしいぞ。」
「そんな事無いよ。」

 今日も彼は不満げに 眉間にしわを寄せて 頬杖をつく。

 そんな貴方が ダイスキで。


002.秘密

 一つだけ まだ 貴方に隠し通せている事実。

 貴方に隠し事なんて出来ないと思ってたのに
 これだけは気付いて欲しいのに気付いてくれない。

 秘密にしなきゃ。
 秘密。
 秘密。

 伝えたら 何もかも 壊れてしまうんだ きっと。
 やっと この気持ちの意味を気づけたのに。

 伝えたいけど
 壊したくないから 黙ってる。

 ダイスキだよ 日番谷君。
 伝えられたら 彼はどんな顔をするのかな?


003.再会

 巡り巡って

 僕らはまた 巡り会う。


「シロ…ちゃ…ん?」
「莫迦野郎。」

 強く頬を抓られた。

 懐かしい銀色の髪の毛に 思わず目を細める。
 シロちゃんの 匂いだ。

「シロちゃん 絶対死神になんてなんない って言ったのに。」
「お前が長期休みに帰るっつたのに来ねェからだろ 莫迦。」

 なぁに 会いに来てくれたの?
 そう言ったら もう一度抓られた。

「うっせぇ 莫迦桃。」

 ふてくされたように そう言われて あたしはあははと笑った。
 ホントはね 泣き出しそうなぐらい 嬉しかったよ。


004.好き

 気付いて いた

 スキとか そんなレベルの話じゃない って。

 君が幸せになれればそれでいいと
 独占欲なんて とうの昔に封じ込めたはずなのに。

「ちく しょ…」

 止まることの無いこの涙を
 どうすればいいのだろう。

 なんで

 なんで。

 アイツなんかよりも 何倍も
 何倍も 君の事を考えている筈なのに。

 好きなんて 言えるはずもなかった。それはきっと 彼女の枷になってしまうから。

 君の笑顔の先が 俺じゃないってことだけで

 どうしてこうも

 涙が出るのだろう。

 誰か 教えて下さい。
 この想いを 砕く方法を。



005.サクラ

 桜舞え

 サクラ

 サクラ



「懐かしいなぁ…」
 優しい春風に頬を撫でられながら雛森は呟いた。

「何が?」
「シロちゃんが 初めて喋ってくれた日。」

 咽せる音が盛大に後ろから聞こえた。

 何やってるの と笑うと バツが悪そうに目線を反らされた。

「…そんな後だったか…?」
「うん そうだよ?」


 日番谷がこちらに来たのは 冬の事だ。
 雪が積もっていて 殆ど身動きがとれないような日。

「口が凍っちゃってるのかと思ったよ」

 日番谷君 一言もしゃべんないんだもん。からかうように言うと その話題から逃げるようにお茶で濡れた書類をぱたぱたと風に晒した。どちらにしろ捨てるくせに。

「日番谷君が喋った時 びっくりしたなぁ。」


 声 出るんだ。そう思った。


「お前が喋りかけて五月蠅いから。」


 他の奴は‘キモチ悪い奴’と認識して喋りかけては来なかったのに。


「あたしが 初めて日番谷君の声を聞いた人なんだよね。」

 そう 嬉しそうに笑う。

 俺をこんなキモチにさせるのはお前が初めてで これから後もお前だけだろう。そう伝えたかったが 日番谷の唇は自然と閉まってしまった。




 桜舞え

 サクラ

 サクラ

 あの時のように

 凍った唇 開かせておくれ。










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