016.気配
中庭に面した廊下を歩いているとき 貴方の気配を感じて 振り向いたのだけれども 其処には誰もいなくって。
あたしは一度首を傾げてから前をむき直した。
おかしいなぁ。一度も間違えた事ないのに…。
「日番谷君?」
居ない筈の でも居る筈の人に声をかけた。ら 上から唐突に声が降ってきた。
「何で分かるんだ?」
「へっ?」
屋根からとんと軽い音をたてて日番谷君が降りてきて あたしはきょとんとそれを見つめていた。
「霊圧は絶ったぜ?」
分からないといった顔を日番谷君がしたから 答えようとしたのだけれどもあたしにも分からなくて首を傾げた。
上手く当てはまる言葉がなくて 少ない語彙を探していたら 一番まともな言葉をやっと見付けた。
「霊圧じゃなくて 気配かな。」
「はぁ?」
何言ってるんだと小馬鹿にしたように言われたから 頬を膨らませてみせた。
良く分からないけど 感じてしまうのはしまうのだ。
日番谷君の 気配だけ。
017.泣いて泣いて泣いて
「莫迦 莫迦 莫迦 莫迦 莫迦 莫迦…っ!」
ボロボロと涙を流しながら ただひたすらその言葉をくり返し続ける。
「お前はそれ以外の罵声を知らないのか?」
「そーゆー問題じゃないでしょ 莫迦 莫迦 莫迦ぁ〜っ…!」
涙は一向に止まりそうにない。
「約束 したのにっ…!」
「死ぬ程の傷じゃねぇだろ?」
「怪我しないって 約束 したの にぃ〜っ…!ひっ く っ ぅ…!」
「喚くな 傷に響く。」
「ひっ 日番谷君の 莫迦 ぁっ…!」
日番谷が怪我するたびに 雛森は泣く。
ボロボロと 大粒の涙をこぼして。
「あーもぅ 悪かったって。」
「もう 怪我 しな い?」
「しない しない。約束するから。」
「……指切り。」
そういって 小指を差し出す。
ゆびきりげんまん うそついたら はりせんぼん の〜ます ゆびきった
それで やっと いつも通りに笑う。
いつも通りに泣いて いつも通りに笑う。
お前がいつも通りに笑ってくれるためには 俺は 死ねない。
018.自慢のコレクション
「「止めて下さい。」」
とりあえず
雛森と 日番谷がハモった台詞。
「なんでだい?こんな可愛い写真なのに。」
「お おばあちゃんっ…!本当 それだけは止めて…っ!」
「クソババァ 燃やされたくなかったら早く仕舞えッ!」
写真に写っているのは 雛森と日番谷で。
「うわ〜…嘘 私こんなのやったっけ…。」
雛森は耳まで紅く
「……。」
日番谷は既に遠い所を見ている。
二人の “ケッコンシキ”
“ちゅー”した お二人の写真。
「折角二人そろって帰ってきたんだから もっと懐かしいのを…。」
「「や め て く だ さ い ッ ! ! !」」
019.イエー!!!
「イエーッ!」
歓喜の叫び声を雛森があげた直後に どぼんという盛大な音がした。
きゃっきゃと嬉しそうに騒ぎながら湖の中を泳ぎ回る雛森を見ながら 少し溜息をついた。
いつまで経っても子供は子供といった処か。
「日番谷君は泳がないの?」
すい と こちら側に泳いできた雛森に対して目線のやり所に困り日番谷はついと目を反らした。
「俺は水嫌いなんだよ」
目線を反らされたのが気にくわなかったのか 返答が気にくわなかったのか。
雛森はむぅと頬を膨らませた後に ぐいと勢い良く日番谷の裾を引っ張った。
「うぉっ?!」
どぼん と また盛大な音。
「あはははっ!日番谷君ってばびしょ濡れー!」
「…ッ…!ひ な も り ィ!」
「あはは 怒った怒ったっ!」
すいと逃げてゆく雛森を追いかけようかとも思ったのだが 何だか怒る気も失せて日番谷は肩を落とした。
彼女はともかく 日番谷は始めから泳ぐ気が無かったので変えなどもってきていない。
どうしたもんかなぁと 諦め半分にびしょ濡れの重くなった浴衣の裾を持ち上げてみた。
はぁ と 盛大な溜息をひとつついて。
020.ジャンプ!
「何ぴょんぴょん飛び跳ねてンだよ?」
「ふわぁぁっ?!ひ ひ 日番谷君 いつから其処に居たのよ もうっ!」
「さっきから。」
雛森は顔を真っ赤にする。
「で 何やってたんだよ?」
「な なんでもないもんっ!」
ぷぃ と横を向く雛森に 日番谷は首をかしげた。
「……?」
「ほ 本当にやってたんですか?あの子ッ…?!」
松本は笑いを堪えながら苦しそうに聞き返した。
「何なんだ アレは?」
「や だって あの子がっ…。」
堪えきれなくなったのか 大爆笑を始める乱菊を 日番谷は呆れながら見つめていた。
要は こうらしい。
「ら 乱菊さんっ!どうやったら乱菊さんみたいなスタイルになれるんですかっ?!」
「…はい?何言ってるの 雛森はもう十分スタイル良」
「御願いです 教えて下さいっ!」
「……飛び跳ねたら ムネは大きくなるわよ。」
「…阿呆か アイツは?」
「誰かさんに好かれたくて必死なんでしょう。」
クスクスと 楽しそうに松本は笑う。
「……藍染 か?」
不満げに呟く日番谷に 松本は動きを止め信じられないという表情を向けた。
「隊長 もうちょっと自分に自信持ったらどうです?」
「は?」
日番谷の間抜けな返答に 松本はわざとらしく一つ大きな溜息をついてみせた。