021.YES
「YES or NO?」
彼の自信満々の笑みに 雛森は選択肢は始めから一つしかなかった事を知った。
なんとなくそれが悔しくて答えないで居ると 彼の顔がぐっと近づいてきた。
「答えないと キスするぞ?」
「っ…!」
こういう時の日番谷君はずるい。そう雛森は何時も思う。
確信を得た時の彼程 雛森が弱いものはない。
「…莫迦日番谷君…。」
「俺はYESかNOの答えがほしいんだけど?」
「っ…YES!」
半自棄で叫んだ言葉に日番谷は満足そうに微笑んで 唇にキスを落としてきた。
−俺のコト、好き?
022.NO
「ダメ。」
「何でぇ?!」
雛森の抗議に そうだそうだと言わんばかりに 彼女の腕の中の猫がにゃぁと鳴いた。
はぁと溜息をついてみせてから 日番谷は口を開いた。
「十三匹目だぞ そいつ。藍染のトコにでも持っていけよ 一匹ぐらい飼ってくれんだろ。」
「ええ だ だって!そんなー!」
酷いよぅと縋る雛森に 何処か行けと手で払った。
ぺろり。
「わ 何 慰めてくれるのー?」
やさしいねぇ 君はと雛森は猫に頬をなめられながら笑った。
「………。」
「ふわ?!」
急に猫を奪われ 雛森は驚いて日番谷を見上げた。にゃぁと猫が不満げに鳴く。
「うるせぇな 飼ってやるっつってんだろ!」
「え?え?う うん ありがと…?」
にゃぁ と鳴いたその声が 日番谷には“格好悪い奴”と確かに聞こえて。
首根っこをつかんでいる手に 少しだけ力を加えた。
023.アイスクリーム
「…死ぬ。」
「暑いねぇ…」
「ああ…もう 何もやる気出ねェ…て 何喰ってンだよお前?」
「アイス。」
「ソフト?」
「キャンディー。」
「要る。」
「はい。」
「…口入れて」
「面倒臭がり…」
「暑がりなだけ。」
「はいは」
「……………………」
「…ご馳走様でしたァ。」
「ッ…!ひ 日番谷君の莫迦ッ!な 何考えてるのよっ!」
「あー 暑くて脳みそ溶けそう。」
何って そりゃぁ 君の事。
何をしたか?
…ご想像あれ。
脳みそが溶けそうな程暑い夏の一日。
024.新しい靴
くるりと 一回転。
赤みを帯びている可愛らしい下駄を見下ろして 頬が緩むのを感じた。
―似合うんじゃねぇの?
よみがえる言葉に 更に頬が緩みそうになって 頑張って表情を戻そうとしたが難しかった。
今度また
貴方が選んでくれた この靴で
貴方と街を 歩きたい。
「…えへへっ!」
貴方の呪文で 何処まででも可愛くなれる気がしてしまうの。
025.ごちそう
「おかえりなさい!」
「お おうただいま…って 何作ってんの?」
「え?焼き魚?」
「…なんで…お好み焼きソース持ってんだ?」
「え?入れないの?」
「…食えんの 其れ?」
「ええ 一生懸命頑張ったのに…た 食べてくれないの…?」
「ッ…!…い いや 食うけどよ!」
「ホント?!良かったー…!」
(…明日俺 生きてっかなぁ…)
不思議な香りのする魚の残骸を見て 日番谷は思わず溜息と共に肩を落とした。