026.尻尾
(新婚ネタ注意)
尻尾があったならば千切れんばかりに振っているであろう程に目を輝かせて『桃』はいつの間にか大きくなってしまった『冬獅郎』を見上げた。
「お帰りなさいっ…!」
「…おー」
「ご ご飯できてるし お風呂も沸いてるよ!どうする?」
可愛らしいエプロンを揺らしながら桃が笑顔で聞いた。
「張り切り過ぎだろ…」
「だ だって…」
しゅんとした雛森を見て きっと今尻尾が垂れ下がったんだろうななどという事を冬獅郎はぼぅと思った。
「無理すんなってこと。…でもまぁ悪いな どっちも冷ましちまう」
「ふぇ?」
すっと腰と膝の後ろにごく自然に手を伸ばし ひょいと持ち上げた。
彼女は落とされないように慌てて冬獅郎の首元に手を回したので 益々それは“お姫様抱っこ”を連想させる抱き抱え方になった。
「まぁ 例の如く。」
「ひゃっ?!」
ベッドにぽすんと至近距離で落とされて 桃は小さく悲鳴をあげた。
え え と 少し潤んだ瞳で見上げてくる桃を見ながら冬獅郎はニィっと笑ってみせた。
「いただきます。」
027.キラキラヒカル
アホかお前。
そう言いたくなるのを飲み込んで 代わりに溜息を吐き出した。
「お星様が 見えない…。」
「だから何だよ。それがへこんでる理由とか言ったらキレるぞ」
「ええ?なんでー?」
お星様が見えないと 空が暗いんだもの。
そんなわけのわからない事を言う雛森に 日番谷は肩を竦めてみせた。
「…ああもう 解ったよ…!」
畜生 と半幅自棄になりながら日番谷はその刀を抜いた。
ゆらりと揺れる冷気に 雛森はそっと目を瞑った。
独り占めしている気分だ なんてよくの解らない事を思いながら
「払え。雲を。全て。」
雛森はそっと目を開いて ゆらりと揺れる氷輪丸の背中と ざぁっと引いてゆく雲を見た。
「うわぁっ…!さっすが!」
「…ったく 今日だけだからな!」
何度目かのその台詞を吐き捨てる日番谷に ありがとうと微笑んでからまた空へと目を向けた。
満面の星屑が キラキラヒカル。
まるでそれは笑顔のようで
こんな空を しかも彼と二人占め出来る自分が嬉しくて えへへと笑った。
028.薔薇色
桃は 薔薇科だということを ご存知だろうか。
一応ながらにも 薔薇色に近い色をしている。
なのに
なのに
何故 棘がこれほどにも無いのだろうか。
どうにかならないものかと 無意味としりながらも視線を投げかけた。
へらりへらりと 貴族上がりの平隊員に雑巾がけを教えている。
その男の鼻の下が伸びていることにも気付くこともなく。
少し 怒りが湧いてきたら。
ちり
少しだけ 霊圧を開放した。
その隊員から どっと汗が噴出して それから目が回って倒れるのがきちんと見えたので 少しだけ満足した。
直後 その霊圧に気が付いた君が 笑っておはようといったから もう少し満足した。
仕方ないから 俺が棘の変わりになるかなぁと ぼぅっと考えた。
029.息も絶え絶え
「っはー はー っ…っはー…。」
荒い呼吸をくり返す。何百もの連続の瞬歩は 流石に疲れる。
息も絶え絶え。
あと 三分。
無駄に延びた会議の原因を作ったあのクソジジィを 今日こそ本気で呪いたい。
「雛森っ!」
ぱんっ と勢い良く扉を開く。
少し拗ねたような顔をした彼女が座っている。
「おめでとうっ!」
眉間に深い皺を刻みながら 半幅怒鳴るようにして言う。
ぷっ と雛森が吹き出す。
「あはは ありがとっ!」
「…どぉも。」
言ってから照れる。
今日は彼女が 護廷十三隊に入隊した日。
かちん と時計の針が動いて 今日の終わりを知らせる。
その音を聞いて 幸せそうに 彼女が微笑んで 言葉を返した。
「おめでとう。」
「え?」
「‘今日’は 日番谷君が護廷十三隊に入隊した日ですっ!」
きょとんとした顔をしてから ああそうだっけと漏らす。
「…どうも。」
「どういたしましてっ!」
俺しか知らないけれども。
今日は 君が幸せに笑う日が いつまでも続くようにと 俺が 初めて願った日でも あった。
030.納得いかない
「だから な?」
「そんなんじゃ 納得できませんっ!」
そう言って 口を尖らす。
やれやれ と溜息をもらせば 雛森の頬はより一層膨れる。
「良いか 雛森。」
「うん。」
「俺は 仕事だ。」
「でもっ!」
「別に 俺の誕生日を祝おうが祝わんだろうが 俺の勝手だろ?」
「そ そんな事ないもんっ!」
「そんなことあります。」
う と言葉をつまらせる。
浮かぶ涙を必死に堪えているのが解る。
「で…もっ!」
お祝い したかったのに。
そう漏らす。
「その気持ちだけで十分ですヨ?」
「…嘘吐き。」
本当だって とは言わない。
言えない。
「日番谷君っ!」
ぱっ と顔を上げる。
「はい?」
「えっとね 早いけど ね。」
「うん」
「生まれてきてくれて ありがとうっ!」
かぁっ と頬を紅くする。恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。
日番谷は 少し考えてから口を開いた。
「どういたしまして。」
ぱぁっ と 雛森の顔に笑顔が戻った。