036.電話
『…今日は 無理 か な…?』
「ん?あぁ…ちょっとな。あと二日間はかかるな」
『…そっか…』
少し沈んだ声。
簡単に脳裏に浮かぶ 少し伏せた君の顔。
-聞きたい
-機械越しなんかじゃなくて
-会いたい
-触れたい
-抱きしめたい
-愛したい。
「…丑の刻」
『ふぇ?』
「起きてろよ。」
『えっ ちょ 何言って…』
名残惜しかったのも事実だが ためらいもなく受話器を置いた。
大丈夫
数時間後には ホンモノの声が聞こえるのだから。
ちらりと時計に目をやって それから呆れた顔をしている部下に目を向けた。
勘弁してください。
小さく聞こえたその台詞は 聞こえないふりをして。
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037.メトロポリス
五月蠅いざわめき。
自分には関係n無い雑音のかたまり。
−五月蠅い
−五月蠅い
ウル サ イ
苛々とつのる不満に両耳を塞ぎたくなった。
虚の血で染まった雪で 何も知らない子供達が楽しげに雪遊びをしている。
−嗚呼
−ああ。
汚れてゆくメトロポリス
星の無い街。
metropolis
汚れきった母なる都史で
俺は 君を想う。
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038.デジャヴ
デ・ジャヴ
−何処かで 会った?
−何処かで 見た。
二つ結びの少女が こうやって 俺に手を伸ばしているのを。
「はじめまして」
初めまして という言葉はそぐわない気すらした。
今なら 解る。
繋がっているんだ。
運命という名の 紅い糸で。
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039.ドラッグ
「飲め。」
「やだ」
「…。」
間髪入れない返事に 日番谷は片方の眉を上げてみせた。
「治らないぞ」
「苦いんだもん」
「…藍染の足手まといになるぞ」
「……もっと甘いクスリ あるくせに…。」
「あぁ?あのなぁ お前アレじゃぁ一日で治るもんも一週間かかっぞ?」
「…それがいい…」
「あのなぁ 餓鬼じゃねぇんだから」
「子供だもんっ!」
あぁ と良く分からない反応を返して頭をがしがしと掻いた。
どうするものか。
「雛森?」
「なに?」
「ちょっと 顔 あげて。」
「ん?」
「んんんんん?!!!」
「はいはい そのまま飲み干す」
「んーっ!んん?!」
ごくんと勢いの良い音が鳴ったので 戻さないように口を押さえていた手を外してやった。
「ひ ひひひ ひつが?!」
「苦いのも不味いのも忘れただろ?」
「……っ」
「朝昼晩だからな おいとくから忘れんなよ。」
クスリを飲ませることに成功した事に満足して 立ち去ろうとするとぐいと裾を引かれ日番谷は雛森に目を向けた。
「……おひるも」
「ん?」
「……飲ませ て」
思わずきょとんとした顔をしてしまった後に 日番谷はぷっと噴き出した。
何故病にかかるとこうも人は甘え上手になるのだろうか。
「はいはい 解ったからもう寝な お姫様。」
「や 約束だよ?」
心配気に口を尖らす彼女に笑いながらもう一度 はいはいと答えた
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040.テレビジョン
(パラレルネタ注意)
銀色の髪に、白いスーツ。
(知ってる?日番谷君は、スーツ嫌いなんだよ)
綺麗な顔がアップになるたびに、不思議な気分になる。
(セーターとかの方が、もっともっとカッコ良いんだから)
彼の歌声に、世界が揺れる。
「…あたしのなのに。」
そう、悔し紛れに呟いてみる。
(そんな簡単に、名前を呼ばないでよ)
テレビ越しに、貴方を見ている。
(あたしがその名前を呼ぶのに、どれだけ苦労したと思ってるの)
ちょっと拗ねてみた、そんな、年の終わり。