041.変
「変。」
「酷っ!」
ほぼ間髪入れぬ日番谷の台詞に ほぼ間髪入れずに雛森は答えた。
「ええ だ 駄目?そんなぁ 頑張ったんだよ?」
大人びた髪飾りを飾ったお団子頭を 崩さないように撫でながら雛森は涙声で訴えた。
「全ッ然似合わないから さっさと外せ。」
「そんなァ…」
「さっさと外せって。」
ふてくされたように言う日番谷に疑問を持ち 雛森は少し首を傾げた。
「どーしたの 日番谷君?」
「なんでもねぇって。だから 早く外せ。」
勿論それが似合っていたなんて 口が裂けても言えなくて。
さっさと外せ と 日番谷は心の中で毒づいた。
−さっきから心臓の音が五月蠅いンだよ。
042.○○さま
「ひ つ が や さ まーッ!」
ぞわりとするその幾重にも重なった黄色い叫び声に 日番谷は思わず肩を竦めた。
−な なんだ今の…?
悪寒めいたものを背中に感じた。
向こうから明らかに何か近づいてきているのに びくんともう一度肩を竦めて反対の方向へ全力で走り出した。
こういう時の処置方は一つだけ。
−悪い 朽木!
内心で軽い謝罪をすると 前方で梅の木を見ている朽木の頭上をたんと軽く飛んだ。
「…?」
失礼なヤツだと一瞬朽木が眉間に皺を寄せたのがちらりと見えたが 直後それも見えなくなった。
「白夜様ーっ?!」
「キャー!」
「こんな処にーっ!」
その声にも振り返らずに瞬歩をくり返して 五番隊副隊長室に転がり込んだ。
「日番谷君?」
「…悪ィ 匿って。」
「あれ もしかしてまた朽木さんの辺り犠牲にしてきたの?モテモテだね 日番谷様。」
けらけらと笑う雛森に 勘弁してくれと日番谷は肩を落とした。
043.青春。
「違うっつってんだろ!」
「何がよ?!」
「莫迦 お前アレの何処が仲よさそうに喋ってるように見えんだよ!」
「仲よさそうだったじゃない!何よ そんな隠さなくても別に!」
ぷいとそっぽを向いた雛森に 日番谷は呆れたように肩を落としながらも説得を続けた。
「だー かー ら!ただ隊員が質問してきたから」
「手取足取り教えてあげるってわけね!」
「…雛森 お前だってなァ…」
「隊長さん直々にね!」
「雛森ィ…!」
ずんずんと進んでいく雛森の後ろを 疲れ切った顔でそれでも律儀に追いかける日番谷を見て ぽつりと五席が呟いた。
「何やってるんですか アレ?」
その呟きに 書類にサインをしながら 彼等には目もくれず松本がキッパリと言い放った。
「青春。」
青いですねぇ 空も 隊長も と 聞けば些か失礼ともとれる言葉を 茶を啜りながら部下達は呟いた。
044.友達
「日番谷 お前雛森先輩と知り合いなのかよ?!」
目を輝かせて聞いてきた同級生(飛び級をしているから本当は年上なのだが)に 日番谷はうざったそうに目を向けた。
何度目だろう。
「お隣さんだったんだよな?」
「お友達ってヤツ?」
「うわ 羨ましっ!」
…お友達 お友達 お友達 お友達…
“姉”と“トモダチ”はどちらの方が位置が高いのだろうかと時折本気で考えたくなる。
「えっと 日番谷君居ますかぁ?」
扉の方から聞こえた 間抜けな聞き慣れた声にぱっと顔を上げた。
予想通りの少女がそこに立っていて 喋りかけられた男子生徒がカチコチに固まっているのも見えた。
「あっ 居た居たー!日番谷君 今日食堂でしょう?だったらさ お弁当一緒に食べない?試作作ってみたの!」
「…前みたいに砂糖と塩間違えてねぇだろうな。」
「し 失礼だな!間違えた事ないよ!」
「片栗粉は間違えたけどな」
「…ッ!いいよもうっ!吉良君に食べてもらうもんっ!」
「誰が食わねぇっつったよ…」
「えへへ それじゃぁお昼休みまた来るね!」
ぱたぱたと彼女が走り去った途端 教室全体に広がっていた緊張がぷつんと切れた。
男子生徒は勿論 女子生徒からも圧倒的な人気を誇っているせいだろう。
「…日番谷」
「…アレで お隣さん?」
「トモダチ?」
「付き合ってんじゃねぇだろうなぁ オイお前ー?」
からかうように肘で小突いてきた男子生徒に にやりと笑って見せた。
「さぁな?」
一瞬教室が氷ついたのに満足して 授業の用意を始めた。
そのうち オトモダチなんて言わせなくしてやる。
そんな決意を胸に秘めて 早く昼休みになんねぇかなぁと流れる雲を見てぼぅっと思った。
045.残ったもの
残った物は ただの虚空。
目も向けたくない世界だけが ただ残る。
血まみれの
紅い紅い世界。
けれども俺達は目を背けない。
背けたくなっても 背けない。
斬った魂の重みを背負っているから
目を反らすわけにはいかない。
ただ真っ直ぐ 前を見据える。