046.キズナ

 断ち切る事が出来たらどんなに樂だろう。
 柵のように絡み付いてくるこの世界から 逃げ出せたら。

 君との絆が 切れてしまったら。

 どれだけ楽だろう
 どれだけ虚無感に襲われるのだろう?

 彼女が 居ない世界。
 彼女との絆が 無い世界。

 俺は一体何処で何をしているのだろうか。
 君は 俺が居なかったら変わっていたのだろうか。
 俺は 君を構成する一部に含まれているのだろうか?

 絆に絡みつけられて
 逃げられなくなって

 悲鳴を あげてる。



047.コンプレックス


 嫌い。
 嫌い。

 こんな 自分が。

 隣に居るのが あたしじゃなくて 見たことのない女の子だった。
 ただそれだけで 胸がズキンズキンと疼いて。
 貴方がうざったそうに手を振り払うその仕草ですら

 あたし以外の人に 向けて 欲しくないと 思ってしまう。

 醜いから 嫌い。
 綺麗じゃないから 嫌い。
 可愛くない あたし。

 その時 あたしはどんな顔をしているのだろう?

 きっと すっごく醜い顔。
 そんな自分に居たたまれなくなって その場を去ろうとした時に いつも貴方は声をかける。

「雛森」

 何処行くんだよ。
 こっち来いよ と。


 たったそれだけで 笑ってしまう。
 隣に居た子を押しのけてまで 貴方の側に行きたくなってしまうの。


 あたしは 可愛い顔が 出来ていますか?


048.拒絶

「来ないで!」
 激しい拒絶の声に 思わず日番谷は扉を開こうとしていた手を止めた。
 向こう側で雛森が必死に扉を閉め合わせているのが影で解った。

「来な いでっ…!」

 ずるりずるりと背中をこすりつけるように徐々に徐々に下に下がっていって 最後に雛森は扉の前で空かないようにしながらしゃがみ込んだ。

「…雛森」

「来な…いでよっ…どっか…いってッ…!」

「嫌だ。」

 間髪入れない返事に 雛森がヒュッと息を呑むのが解った。

 誰が何処かになど行ってやるか。

「いいから開けろ。赤い目なんてもう見飽きてんだよ」

 偉そうな言いぐさに 思わず雛森は笑いそうになってしまった。
 全く 何でこの人はこうも“会いたくない理由”をさも簡単に見付けてしまうのだろうか−…
 そんな事を考えていたら また泪が溢れてきてあわてて顔を覆ったせいで 扉から手を離してしまい 当然かのように日番谷は間髪入れずその扉を開いた。

 彼なりに気をつかったのか パタンと扉を閉めた後に 雛森の横にしゃがみ込んだ。

「慰めて欲しいなら それでもいい。…いくらでも慰めてやるから」

 器用に指先を滑り込ませて 日番谷は雛森の顎を掴んだ。
 ぐいと力を入れられて 雛森は紅い目を晒さざる得なかった。

「だから」





 突然の事に雛森の頭は全く反応出来ず ただ一つ拾い上げた情報は一つだった。




 甘い。




「だから 泣くなよ」



049.さみしい

「日番谷君 お散歩行こうよ」
「んー」
「日番谷君ってば」
「あー」
「甘いもん食べたいねぇ」
「んー」
「嘘吐き…」
「ああ」
「…なんか喋ろうよ」
「おー」
「日番谷君の莫迦。」
「んー」

 生返事がさみしくて 雛森はちょっとした悪戯をした。

「あたしの事 好き?」
「おう。」


「……………。」
「……………。」

 ぴたり と 止まる 本を捲る手を見て 雛森はしてやったりと満面の笑みを浮かべた。

「…ッ…おっ お前ッ…!」
 かぁーっと真っ赤になる日番谷に 雛森もまた真っ赤な顔で舌を出してえへへと笑った。

「お出かけ しよ?」

 少し上目使いのそれに 観念して日番谷は溜息をついた。
 どうせ本など読んでももう 頭の中になどはいらないだろう。


 ぱたんと本を閉じた。


「はいはい。行くならさっさと行くぞ」
「やったぁっ!待っててね 用意してくる!日番谷君大好きッ!」

 ぱたぱたと走り去ってゆく雛森を見送って あ と日番谷は呟いた。
 かりかりと頭を掻きながら しまったなぁと思いながらも声を漏らした。

「…否定するタイミング 逃した。」

 ま いいか と熱を持った頬を冷まそうと本を団扇代わりにしてぱたぱたと二三度仰いだ。


050.許さない

「ひ な も りー。」

 それでもお団子頭は振り返らない。

「んなに拗ねんなって」

 それでもお団子頭は立ち止まらない。

「冗談に決まってんだろ?」

 それでもやっぱり返事は返らない。

「桃?」

 それでも−…

 あ 振り返った。
 んなに驚いた顔しなくったって。

 やっと自分が負けた事に気が付いたのか 雛森は少し顔を歪めた。
 そうしてから またくるりと踵を返して前へと歩を進め始めた。

「雛森ぃー…」

「許さないもん。」

 そんな事言ったって。

「冗談だって」
「実際太ったもん!」

 未だに彼女は乗っかった時に反射的に彼が照れ隠しに出した「重い」という言葉を気にしているらしい。
 全く面倒だ と 溜息を付いた。

「あんのなー。身長伸びたら体重だって増えんだろ」
「そんなに伸びてないんだもん」
「…じゃぁ 胸大きくなったら」
「…セクハラ」
「っせーな!じゃぁどうフォローしろっつーんだよ!」
「しなくていいよ!もう ホントの事だもんっ!」
「あーのーなー!」


 今日も 爽やかに風が吹く。











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