056.刹那
刹那。
君の顔が近づいた。
僕は 何も言わずに目を瞑った。
057.眠れない
眠れない夜には 満月を。
眠れない君には 子守唄を。
「…雛森」
名を呼ぶと 彼女はこちらを見て苦く笑った。
「…眠れない、のか?」
そう聞くと 彼女は首を振った。
「眠りたくないの。」
優しい声は 震えていた。
一匹の地獄蝶を 追悼するかのように。
058.記念日
囁いてあげようか
甘く 甘く 耳元で。
「ずっと ずっと この先も。」
盃を挙げよう
二人で呑もう 何時までも
ずっと ずっと この先も。
何度目かの 愛しい人と結ばれた記念日に。
059.喧嘩!
「だからァ!聞いてるのっ 日番谷君!」
耳元で叫ばれ 日番谷はチッと舌打ちをした。
雛森の声は キィンキィンと頭と傷口によく響く。
「少しは静かにしろよ うるせェな!」
「んなっ…!あのねぇ 日番谷君が悪いんでしょう!」
「アァ?!俺の何が悪いってんだよ?!」
「全部よ全部っ!ほんっとあり得ない!莫迦莫迦莫迦莫迦!」
「なっ…テメェがズッ転けんのが悪いんだろ?!」
雛森が頬を膨らませたら それは反論することが無いという証拠だ。
日番谷が「勝った」と内心ほっとした瞬間 彼女はおもいっきり彼の傷口をグーで殴った。
「ッッッ…?!!!」
「莫迦ァ!」
あまりの痛みに傷口を涙目で押さえながら 扉を勢い良く開け 閉めずに立ち去ってゆく雛森の背中を見た。
喧嘩の理由は いつだって 相手を想った怪我。
060.夜
夜が暗くて怖いならば
夜が長くて寂しいならば
夜が冷たくて寒いならば
傍に居るよ
ずっと ずっと
夜が明けるまで。
「……。」
小さな己の腕の中で眠る彼女を 左手でそっと起こさないように引き寄せた。
長い睫が少しだけ近くなった。
せめても 眠る事が出来る日ぐらい。