066.雨の日
雨の日、君は泣いていた。
ふと、日番谷は顔をあげた。
何かに呼ばれたような気がしたのだ。
しかし、其処には誰も居ない。
(……?)
気になりはしたが、少し迷った挙句に日番谷は再び本に目を落とした。
雨の日、僕は其処に居た。
ふと、雛森は手を止めた。
何かに呼ばれたような気がしたのだ。
しかし、其処には誰も居ない。
(……?)
日番谷の声であった気もした。
迷った挙句、彼女は泣くのを止めて立ち上がった。
(日番谷君に、会いに行こう。)
空には、小さな虹がかかっていた。
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067.曇り空
先ほどから薄めの雲に覆われている太陽から、晴れる気が無いコトが伺える。
しかし、どうやら雨を降らす気も無いらしい。
雛森は小さく溜息をついた。
酷い。
そう呟いてみても、その声が太陽へと届くコトは無さそうだった。
夏場ならばどれだけ良い天気と言えただろうか。
しかし、今の時期では寒くて仕方無い。けれど、これ以上厚いものを羽織ると歩き出せば暑くなってしまうだろう。
それから脱ぐとなると、荷物になる。
窓から空を見上げて悶々と考えた挙句、雛森は薄黄色のマフラーを巻いて出る事にした。
もう寒々しい格好をしているであろう、あの木の下で、彼が待っている筈だ。
風邪をひきやすい彼を待たすわけにもいかない。
久しぶりに下駄でも履こうかと思ったが、拗ねる彼の顔が思い浮かんだのでやめる事にした。
彼が彼女の身長を追い越してしまってから履く事にしよう。
何時の事になるかしら。
想像すると何だか楽しくて、雛森はふふっと笑った。
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068.ひこうき雲
*現代パラレル注意
飛行機雲を見つけた。
あの飛行機に、君は乗っているだろうか。そう思って、日番谷は目を細めた。
女優になった彼女が渡米して未だ二ヶ月も経っていないというのに、こんなにも堪えている自分に溜息が出る。
カメラを構えてその飛行機雲をファインダー越しに見た。
約束したのだ。この日本で、写真を撮りつづけると。
帰ってきたら、とびっきり綺麗になったあたしを、とびっきり綺麗に撮ってね。
そう言って彼女は笑った。
彼女の活躍をテレビで見る事は暫しある。その宣言どおり、彼女はどんどんと美人になっていた。
何かで彼女の写真が出るたびに思う。
俺だったら、もっと綺麗に撮るのに。
新人として注目されてはいても、まだまだ日番谷は写真家の中では無名だった。
大体、写真家など滅多な事では名前が売れる事はない。
彼女の名前に便乗して自分の名前が売れる事だけは絶対に嫌だった。
だから、共に渡米しようと言った彼女の言葉も断った。
絶対に、何時か、俺がとびっきり綺麗に撮ってやる。
そう心に決めて、シャッターを切った。
パシャリ、と、夏らしい乾いた音が響いた。
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069.流れる
世界は流れつづけている。
水も時間も何もかも
僕等は流れつづけている。
目を瞑ると、涼やかな水の音が頭の中に響いた。
浸かった足が冷たい。
ごろんと横になると、草の臭いを感じた。
そっと目を開くと、近くに蛍が止っていた。
逃げないのを不思議に感じながらも、日番谷は動かなかった。
懐かしい記憶が蘇る。
(あの日も、アイツと一緒に蛍を見にきたっけ。)
シロちゃん、と呼ぶ声を聞いた気がした。
彼女は、未だ起きてはいなかった。
時の流れが、彼女の心をアイツの変わりに洗い流してくれないかと考える、他力本願の自分が嫌になった。
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070.ナミダ
泣いた。
あそこまで泣いたのは、もう一生には無いのではないのだろうかと思う程、泣いた。
何が悔しかったのだろうか
何が哀しかったのだろうか
正直、今となってはよく覚えていない。
ただ、
その腕に残る、生々しい傷跡に
涙が、止まらなかった。