086.おもちゃ
ずっと、ずっと、傍に居るよ。
弄んで
壊しておくれ。
あの熊の縫いぐるみのように
抱きしめて
何時しか捨てておくれ。
あたしは大人になったのよと
もう貴方は要らないのよと
そう云って、捨てておくれ。
君が寂しくなくなったら、捨てておくれ。
087.人形
ずっと昔から、人形というものが嫌いだった。
何で女の子があんなものが好きなのかも理解出来なかったし、理解したいとも思わなかった。
それどころか、彼女を取られたようで多少なりとも嫉妬した事すらあった。
でも
泥だらけの、着物を着た黒髪の人形を見下ろした時は確かにその命を感じた。
彼女の手の中にあった時は、あんなにも綺麗だったのに。
人形は濡れていた。
笑った顔のまま、泣いていた。
アノコノ元ニ、帰シテ。
雨が、止んだ。
088.ポスター
*日番谷男優パラレル
大きく貼られた貴方のポスター
広告塔にも、駅にも、貴方の顔がずらりと並んでる。
それを指さして人が云う。
「この映画ってさぁ、冬獅郎めっちゃカッコイイ役なんだってぇ?」
その名前を呼ぶのに、あたしがどれだけ苦労したと思ってるの。
ちょっと不服に頬を膨らませていたら、鞄の中の携帯が鳴った。
画面に表示される貴方の名前。貴方の言葉。
ちょっとだけ、勝った気分になってみた。
こんな事、彼に云ったら笑われちゃうんだろうけど。
089.精霊
精霊より、綺麗だと思う。
湖の隅を裸足で駆け回る彼女を見て、思わず頬が緩む。
傍においでよ、ボクの愛しい人。
歌っておくれよ、その歌声で。
おいでよ、と彼女が笑った。
少し躊躇ったけれど、袴が濡れる事を厭わずに湖に足を突っ込んだ。
ひんやりとした水が気持ちよかった。
掴まえてごらんと君は笑う。
待ってろよ
三秒後には、オマエは俺の腕の中だからな。
そう云えば、彼女は大きく口を開いて笑った。
090.ジャポニズム
偶には、お洒落ぐらいしたい。
現世に降りると、良く思うこと。
勿論着物もスキだ。けれども、現世の女の子の洋服のバリエーションの広い事広い事。
始めは同じ服に見えて目が点になってしまったけれど、慣れてみると意外とさり気ないトコロが違ったりして、楽しい。
元々あんまりしないけれども、お化粧だって全然違う。
仕事着は死覇装。
洒落ッ気など求めたら不謹慎と怒られるかもしれないが、少し寂しい気がする。
そんなことをつらつらと漏らしていたら、静かに聞いていた彼が最後にぼそりと呟いた。
「現世の靴は、踵が高い。」
思わず笑ってしまったけれども、暫く下駄もブーツも我慢して、草履で居てあげる事にした。