091.旅
「旅に、出ようか。」
唐突なセリフに、雛森はきょとんとして彼の方を見た。
「旅?」
「旅。」
さらりと返されて、雛森は二三度瞬きをしてみせた。
日番谷は、それを真っ直ぐ見返してニッと笑った。
092.果て
「走って走って、行き止まりまで走っていったら、何処に着くんだろうね。」
歌うように呟いた君の問いに、答える事は出来なかったけれど。
もし、俺が行き止まりに出会うまで走っていったらきっと。
世界の果てには、君がいる。
093.ささやき
耳元で、そっと。
優しく優しく
激しく激しく
囁くよ、愛の言葉を。
「もう、逃しはしないから」
捕らえた腕を、離しはしない。
094.二人組
「違和感が、無いんですよ。」
部下の唐突の台詞に、日番谷は眉間の皺を深くした。
「何の話だ。」
それに返事をするかのように、彼女はブロンドの髪を掻き上げてフーと息を吐き出した。
「隊長と雛森が並んでいて、違和感が。」
褒め言葉なのか貶し言葉なのか理解しかねて、日番谷は右眉尻を上げた。
「もう、二人組なんでしょうね。二人でヒトツ。」
「…松本、台詞に棘を感じるんだが。」
「気のせいじゃないですか。」
彼女が何を言わんとしているのか上手く汲めず、日番谷は自分の固い髪をガシガシと掻いた。
095.夜明け
空が白み始めた。
真っ白い銀世界を染める赤色がより一層際立つ。
独りである。そう感じるたびに、彼女の顔が瞼の裏に浮かぶ。
重い刀を鞘に納める。
このまま、錆びてしまえと心の何処かで思った。
夜明けはもう、其処まで来ている。