096.たそがれ

 黄昏時の空は美しい。
 ころころと変える空の表情に、彼女の事を思い浮かべる。
 笑って、怒って、泣いて、冷酷になって、悔しがって、時折どきりとする程凛として。

 この空を彼女の表情のどれかに例えろと云われれば、アイツの事を想っている時の横顔と例えるだろう。

 あの、顔を背けたくなるぐらい綺麗な横顔に似ていると。


097.森

 ぜぃ、はぁ。
 息が上がって苦しくなる。
 それでも走らなければいけないと、自分の中の誰かが叫んでいた。

 帰らない彼女

 探れない霊圧

 帰らずの森が目に入った時の、恐怖。

 昔から、暗いところが嫌いなくせに。
 昔から、方向音痴のくせに。

 ただ、キミを見付けないといけないと、全身が叫んでいた。


098.週末の過ごし方

 週末は昼間から白酒を片手に、部屋の縁側でシロを膝に乗せ
 薄雲のかかる青空を見上げるのに限るんだよ。

 勝手に潜り込んでくる野良の白猫だよ。オマエが名前つけたんだろ。

 うるせぇ。俺はシロじゃねぇって。

 親父臭いなどと今更言うなよ。聞き飽きた。

 …や、だから。週末は。

 …わかったよ…いつものトコに10時な。

 謝るなら始めから言い出すなよ。

 …いや、悪かった。別に怒ってるわけじゃないんだ。

 …団子を奢るより、抹茶を奢れよな。


099.記憶

 それは朧気な記憶。
 パステルカラーで彩られた記憶。
 君は目を瞑る。
 ボクはそっと唇を君の頬に近づける。

 それは、確かな約束。
 記憶に刻まれた、約束。

 絶対に傍に居るよ

 そう呟けば、昔の君も今の君もとても優しく笑ってくれる。


100.卵

 何かが始まる予感。
 何かが生まれてくる予感。

 殻を纏ったひよこが動き出したように
 殻を纏った心の奥で、何かが動き出した。

(もう、戻れない)

 キミを抱きしめている腕に力を入れる程、元の殻にはもう入れない事を覚えさせられた。










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