101.風
風は、確実に吹き初めていた。
(嵐が来るな)
世界が変動してゆいくような雰囲気。
暗雲はそこまで近づいて来ていた。
(いつまで、このままで居られるんだろう。)
風はそれでも吹き止まない。
102.トランス
「ダメだな、これは。」
日番谷は思わずそう零した。
完全に固まっている雛森の目線の先にあるのは、一体のうごめく黒い生物。
しかも、ひっくり返ってピクピクいっている状態だ。
(確かにまぁ気持ち悪いけど…)
何もここまで過剰反応しなくても。そう思いながら、ソレの処理の方法をぼぅっと考えた。
103.声
時々、彼等の声を聞く時がある。
何故助けてくれなかった。
何故殺した。
そう、叫び合う残像が責め立ててくる。
狂ってしまいそうな程、悲しみが押し寄せてくる。
どうしてもキミの声が聞きたくて、扉を開いた。
怖い夢を見た。
そう云ったら、キミは子守歌を歌ってくれるだろうか。
104.灰
燃やされた手紙の亡骸を見ながら、静かに溜息をついた。
こういうものはどうやっても処理に困る。
(…フる方も体力要るんだよな)
そんな事を考えてから、なんとなく申し訳無くなってその考えを取り払った。
ファンレターを言えば聞こえはいいかもしれないが、なかなか中身は一方的だ。こちらの方はお構いなしに想いを綴ってあるから、わざわざ断りに行くのも何か違うような気がしてしまう。
かといって断りに行かなければ、ポジティブ思考の中にOKされたと思うような人も居る。
(俺の想いを綴っても、こんな風になるのかな)
風が吹いて、灰は空へと舞い上がった。
105.水
ぼうっと体が火照っているのが解る。
水が飲みたい。そう思って手を伸ばしてみるが、勿論そんなトコロにある筈もなく、殆ど這い出るようにして布団から出る。
立ち上がるのもしんどい。
がしりと伸ばした手が何かを掴まえた。
何かも解らず、ぼぅと上を見上げる。
(あれ)
目の前にあるものを判断する前に唇に柔らかいものが触れる。そこから液体が流し込まれる。
(気持ちがいい。)
その液体を飲み干すと、どっと疲れが舞い戻ってきた。
目を瞑る。
気付けば眠りについていた。
後日、雛森が熱を出した理由を彼が知る由もなかった。