121.夏
夏は俺を飲み込んでいく。
焼ける。
溶ける。
そう呪文のように呟いた。
汗が滝のように流れる。
氷輪丸が勝手に具現化状態になって暑さを五月蠅く訴えてくるので、冷蔵庫に鞘ごと突っ込んでやると静かになった。
それでいいのかと言いたくなるが、それでいいらしい。
日番谷は片手に団扇を手にしたままソファに埋もれながら、季節によって体調を崩す斬魄刀なんてイヤだ、と小さく呟いた。
122.背中
扉の向こう側で、彼女が何の脈絡もなく云った。
「背中、流してあげようかぁ?」
唐突な申し出に赤くなる自分がまだまだ青い事を知って、悔しくなる。
「結構です。」
態とらしい程キッパリと返事を返したら、不満げな声が返ってきた。
123.時間
一刻、一刻と時間は迫ってくる。
一、二、三、四。
カウントは既に始まっている。
もう、溢れる想いは止まらない。
124.バスタイム
「日番谷く〜ん?」
洗面所で顔を洗っていると、横のバスルームから声が聞こえた。
シャワーを浴びていたのだろう。朝っぱらから、とは思うが、この夏場では仕方無い。
俺も入ろうかな、と思いながら日番谷は返事を返した。
「何。」
「あのねぇ」
なんとなく間の抜けた返事が返ってくる。
「部屋から下着取って来てくれない?」
三秒後、そのくらい用意しておけという日番谷の怒鳴り声が古いこの家に響いた。
125.飲む
「…美味いか?」
そう言う日番谷が訝しげに指したのは、緑色の液体に白いものが乗っかっているものである。
白いものが溶けだして、緑の液体の上部と混ぜ合わさっている。
緑色の液体からは、ひっきりなしに泡が発生している。
「おいしいよ?いる?」
ずい、と差し出された其れを、日番谷は押し返した。
「いらねぇよ。気味悪い。甘ったるい匂いするし。」
厭、という気持ちを全面に押し出した顔をする日番谷に、雛森は頬を膨らませた。
「ええ、美味しいのに。クリームメロンソーダー。」
「何だよ、その意味わかんねぇ名前。」
「この飲み物の名前だよ。」
ホント美味しいんだよ?と言う雛森の横で、日番谷は吐きそうな顔でお茶を啜った。