131.炎
内に秘めたる其の桃色の炎が
ちろちろ、ぱちぱち。
俺の心を焦がしてゆく。
「畜生」
ちろちろ、ぱちぱち。
132.デジタル
朝日が差し始めた頃、小さな家の小さな部屋にデジタル音が響く。
がしゃん、と音をたててその目覚ましは止められる。
ディスプレイに映る7:15の文字をぼうっと見つめて、一つ欠伸をして雛森は身体を起こした。
今日は11:00から彼との久しぶりのデートだ。
(さ、気合い入れてお洒落するぞっ!)
もちろん、待ち合わせは一時間前に行くのが彼女の基本だ。
133.鏡
鏡は、何となくキライだ。
というか、怖いと思う。唯一自分の姿を見ることの出来る道具だ。
そのくせ、その姿は完全じゃない。本当の自分の姿を見られるのは他人だけだ。
だけれども、自分の心が解るのは自分だけだ。
誰も、完全に誰かを理解できない。
誰も、完全に自分の全てを知ることが出来ない。
だから、似ている自分を映す鏡が怖いと思う。
そう、ソレがあると自分を見失いそうになるんだ。
だから、俺は思うんだ。
「お前ってさ、鏡みたいだよな。」
134.瞳
その瞳に全てを奪われた。
その瞳に全てを吸い込まれた。
その黒き瞳のせいで、俺は自らの炎で自らを焼き尽くすんだ。
「…な、もり」
掠れた声では彼女の名前を紡ぐことすら難しい。
彼女は俺の手をとり、俺の瞳をのぞき込む。
「ここに、いるよ。」
その瞳が
その声が
その温もりが
俺を、狂わせるんだ。
135.小さなもの
見失ってしまいそうなほど、小さな小さなもの。
目に映らない程小さなものが、いくつもいくつも君のまわりにはあって、それが君を輝かして見せるんだ。
じゃないと、君がこんなにも眩しい説明がつかないだろう?