161.コピー
「ね〜、日番谷君。」
「何?」
「あたしのコピーがあったらどうする?」
「…は?」
「だから、あたしが二人居たらどうする?」
「……何で」
「どっちが本物か解ってくれるかなぁって思って。」
「…解るだろ。」
「え、何で?」
「…俺が分かんないわけないから。」
「ぷっ…!何?その自信?」
「…笑うなよ!」
「だ、だって…日番谷君、顔真っ赤だよ?」
「う、うるせぇなぁ!!」
ある休日の昼下がりの話。
162.滴
雨の雫が、屋根からポタポタと落ちてくる。
いつになったら止むのかと、空を睨みつける。けれども一向にお構いなしといった顔で空は雨を降らし続けた。
思い付く限りの罵詈雑言を心の中で唱えてみたが、虚しくなっただけだった。情け無い。
止まない雨も、手の下で真っ白のまま保存されている書類も、全てアイツが悪いのだ。
アイツが、隣に居ないから。
畜生と小さく呟く。
お前が居れば、少しは雨も好きになれたのに。
認めてやるのが悔しいから、疲れたフリをしてソファに倒れ込んだ。
163.出会い
単純明快簡素な出会い。
物語の初めのような、それでいてそこまでロマンティックでもない出会い。
でも確かに。
初めて出会った時のお前の笑顔は、俺には眩しすぎる程輝いて見えたんだ。
164.ここが好き
「俺さ」
「うん」
「ここ、好きだ。」
久しぶりに彼の口から聞いた「好き」という単語に、思わずドキリとする。
あたしは慌てて、曖昧な返事を適当に返した。
太股の上にある彼の頭が、ごろんと動く。くすぐったい。
「…あたしさ。」
「うん」
口にだすつもりはなかったのに、ぽろり、ぽろりと口から言葉が出てくる。
「日番谷君にこうされるの、好きだよ。」
撫でた銀髪から覗いた耳が、りんごみたいに赤くなっていた。
165.パニック!
「日番谷くぅんっ!」
悲鳴のような雛森の声にぎょっとする。
声のほうを振り向けば、しりもちをついた彼女が震える手である一箇所を指差していた。
何事かと慌てて指された方向を向いたが、何もない。少し目を凝らしてみる。
やはり何も−…と考えかけた時、其れは目にとまった。
足が八本ある、あの不思議な生き物だ。
「…嗚呼」
思わず出たその台詞は、妙な納得感につつまれていた。