176.一年前
よくよく考えてみたら、もう一年も過ぎていた。
意外なことこの上無い。何時の間に季節は一周したのだろうか。
(あーあ。)
去年と変わらない距離に、思わず溜息。
このままで居たいと願ったのは自分のくせして。
エンドレスリピート。この温い風呂に、熱湯でも注いでおくれ。
177.10年後
ずっとこのまま、続くのだと確信する。
そっと隣に居る貴方の体温を確認して、そして寝息を確認して。
それから、小さく愛を囁く。
ぽっかぽっか。頬が温かい。
「大好きだよ。」
ぽっかぽっか。
貴方の頬が赤く染まって、狸寝入りだったと気付くまで、あと三秒。
178.歯
軽く、軽く。
ちょっぴり歯をたててやる。
「っ?!」
びくんと体が反応する。ちょっと後悔したけれども、止めない。
「ひ、日番谷君?」
心地よい悲鳴などといったらひっぱたかれるだろうか。
白い肌に赤い華はよく映える。
甘い蜜でも啜ってやろうかなんて不埒な考えがでてくるのは、きっと酒のせい。
ヒトツ、ヒトツ、丁寧に華を描く。蟲が描く蟲避けの華。
179.つま先
(畜生)
悔しい。悔しい。何で悔しいかって、自分じゃどうにもならないからだ。
何千の努力したってどうにもならない。先は神様だけがしっているなんて、不満もいいところだ。
悔しい。悔しい。
何が悔しいって、この身長が。
精一杯のつま先立ちで、やっときみの顔を隠してやれる。
隠してやるから思いっきり泣けなんて、格好良い事がいえないこの身長が、嫌いだ。
(畜生)
君の嗚咽を聞いて瞼を閉じた。
莫迦野郎って、自分の身長を貶しても仕方がないのは解っているつもりだけれども。
180.スウィート
甘い、甘い、甘い。
西洋の菓子の甘味はどうも慣れない。和菓子ならまだマシだ。茶で甘味を誤魔化せる。
同じように、西洋の菓子は紅茶で飲むと良いと言われたことがあるが、如何せん紅茶自体がどうもよくわからない。
「でね、ここのがすっごいおいしいの!」
そう云われるたびに、解りもしないのにへぇと相槌を打つ。
目の前に差し出された餡蜜団子をどうするかを思案しながら。
嗚呼、スウィート。
そろそろ開放してもらってもいいでしょうか、なんて、その笑顔を見てたら云えるわけがない。