186.ボトル

 涙をボトルに詰め込んで、海に流そう。
 きっと誰かが見つけて、蓋を開けてくれる。

 そうして、涙は海へと帰るんだ。

「だからね。」

 あたしはゆっくりと呟いた。ちゃんと聞いているかしら?
 日番谷は今だ顔を上げない。
 体操座りで、腕に顔を埋めるなんて、まるで小学生のようだと思った。
 さすがに声にだしはしなかったけれど。

「だから、涙も無駄じゃないんだよ。」

 めいいっぱい泣けばいいと、そこまでは云わなかったけれど。


167.影

 飲み込まれてしまいそうな、君の黒い部分、全て抱きしめてみたくて。
 その全てを、飲み込んでみたくて。

「…雛森。」

 ゆっくりと、そして性格に彼女の名を呼ぶ。
 獣の目で敵を睨んでいた彼女が、びくんと反応した。

 そう、その影なんかに君をくれてやる気はないのだ。

「ヒ・ナ・モ・リ。」

 にやりと笑ってみせれば、彼女の目の色が光を取り戻す事ぐらい、知っている。


168.忘れてしまった

 忘れてしまった
 なくしてしまった、この想い。

 自分で望んだはずなのに
 自分で願ったはずなのに

 なんでこんなに、


 涙が、止まらないのだろう。


189.誰もいない

 裸足で走り回って、覚えているところ全てを巡った。
 誰も居ない。
 息遣いもきこえない。

 其処に在るのは、ただ恐怖だけ。
 そんな世界。

 嗚呼、此処には誰もいないと唐突に自覚させられる。
 風も、葉も、君すらも。


 目が覚めた時、俺は汗だくだった。


190.スパーク

 火花が散った。
 嗚呼、こういうことを云うんだ、と妙に納得する。
 虚と退治している時の唐突な痛みとは違う。驚愕、そして完全なる不意打ち。

「……いってェ」

 彼女が去ってから、ぽろりと零れた言葉。

 痛いのは引っ叩かれたこの頬か、それとも涙を見つけてしまったこの心か。










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