191.ヒナタ

 ぽか、ぽか、ぽか。
 日向でのお昼寝程幸せな時間はない。

「ああ…幸せでとろけそう〜…。」

 そう一人呟き、雛森は目を閉じた。
 とろとろ溶けてしまいそうで、それすらも良いとしてしまうような魔力が春の日差しにはある。

「…ホントに解けそうで怖いンですけど、雛森サン。」

 呆れた声が降ってきたので、雛森はそっと目を開けた。
 逆光を浴びた彼の姿。

「…いっしょにねる?」

 にへらと笑う雛森に、結構ですと溜息気味に日番谷は返事を返した。


192.のんびり

 すーう、はーあ。深呼吸。
 手足を放り投げて、全身で太陽の光を浴びてー…。

「…………はぁ。」

 出てくるのは、やっぱり溜息。
 彼の遠征から、どんどんミスは増えていった。
 それに気付いた藍染隊長が、気を利かせて御休みをとってくれたのだ。

『少し、のんびりするといいよ。』

 そう云われたものの、この有様。

(のんびり、って、何だっけ。)

 目をつぶって、彼が帰ってくることを待った。ぽかぽか、太陽が暖かい。



193.童話

 いつか耳にした童話の語り手のように、彼女は歌う。
 いつか耳にした童曲の歌い手のように、彼女は語る。

 ほんの少しだけ目をつぶってみる。
 彼女の描く風景が見える。感情の色が見える。

 彼女は、広げる。見せる。人に、自分の中を。
 それは、俺には到底真似できないことで。

 屈託の無い笑顔に、ほらまた俺は溺れてく。


194.最も遅い乗り物

 のろ、のろ。
 三歩歩いて、ぜえ、はあ。
 のろ、のろ。
 三歩歩いて、ぜえ、はあ。

「…諦めて降ろせ、莫迦。」

 そう「乗り物」に声をかけたが、「乗り物」はブンブンと首を振った。

「駄目。日番谷君、そんなに足はれてるのに無茶するんだもん。」

 のろ、のろ。
 三歩歩いて、ぜえ、はあ。

 最も遅いであろう乗り物に揺られながら、日番谷はどうしたもんかなあと頭を掻いた。


195.ガラクタ

 ガラクタとは、つまりはイコールで宝物である。
 大事にされているガラクタは、大事にされているからこそガラクタと呼ばれているのだ。
 大事にされないガラクタなど、塵なのだから。

 だからやっぱり、これはガラクタなのだ。

 おもちゃの指輪。もう、てっぺんについていた簡易なガラスの宝石など落ちてしまった。
 なのに後生大事に抱えている自分に思わず笑いがこみ上げる。
 一体この指輪は、どんな寒い口説き文句と共に渡されたのだっけ。クルクルと指で回し、それからそっと小指にはめた。
 本当は薬指にはめてみたかったのだが、流石にもうそこまで指は細くない。

「ガラクタ、かあ。」

 誰にも価値を認めてもらえないガラクタ箱は、彼との思い出で溢れ返っていた。










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