206.鎮魂歌

 目をつぶって歌う。
 貴方へ届けと、涙をこらえて。

 貴方はいつだって、静かに傍らで、目を瞑って聞いていてくれた。

 帰ってこない人のための唄を、貴方は聞いていてくれた。
 泣くことも、笑うことも、慰めることもせず、ただぶすっと無愛想な顔で。

 ずっとずっと、聞いていてくれた。


207.片方だけ

 なくしてしまった。
 片方だけ、
 この、両手から。

 ああ、この隙間が痛い。

 左耳に、開けたピアス。


208.自分の死んだ後

 其処になにがあるのか興味はないけれども、例えば君がもしまたこの世界に戻ってくるのであれば。
 俺は其処に、生きた証を残そう。

 君と生きた証を。

 冷たくなった土に、誰にも枯らすことのできない傷跡を、
 君が、帰って来るならば。


209.コラッ!

「コラッ!」

 ぐいと耳をひっぱって叱られて、日番谷はおもわず首をすくめた。
 口についた食べカスを、舐めとる。

 仁王立ちをして、困ったように眉を下げている彼女を見て、思わず笑いがこみ上げた。

「美味いよ」

 そう云えば、雛森は僅かに耳を紅くして、折角ヒミツにしてたのに、と口を尖らせつぶやいた。


210.生意気

 ひくり、と日番谷は顔をひきつらせた。

(子供なんて、だいっきらいだ。)
「っせーな、チビっ」
(お前がな)
「しーちゃーん、こっちー!」
(誰がしーちゃんだよ…!)

 眉間の皺をいつもより5倍増しに増やして、日番谷は眉間を抑えた。
 恨めしく思い出すは、笑顔でこの二人の子供を預けて意気揚々と外に出て行った、彼女の顔だった。











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