241.発見
部屋に入った時、ラベンダーの香りに直ぐに気付いた。
花自体は見当たらなかったから、御香かなにかだろう。
犯人が誰かはすぐわかった。
それだけ心配させている自分が情けなかった。
布団に入ってからしばらくして、俺は久方ぶりに深い眠りについた。
夢はみなかった。
242.裏切り
考えるな。忘れよう。
そう思っても、脳裏を掠める。
誰かを信じる事は、かつてこれほどまでに難しいことだったろうか。
脅えている。信じる事の裏を。
傷は決して、浅くはなかった。
243.コンセント
コンセントが、壊れた。
いがんでしまったらしい。
かみ合わない、プラグとコンセント。
なんとなく、切なくなって苦笑いをした。
244.本日開店
「…なんだこれは。」
「雛森プロマイド5枚セット、サービスショット一枚付き、驚きの特別価格15、000円です。」
「高いな。」
「突込みどころはそこですか。」
松本写真販売店、本日凍結。
245.ふるさと
ふるさとなんて大それた名前は似合わない。
ささやかで質素なその街には、一人の老婆がいた。
街の子供は皆彼女の元に集まった。
彼女は、子供たちの家だった。親だった。
「日番谷君。」
ぼろぼろ泣きながら雛森がふすまの前で棒立ちになっていたとき、すべてを悟った。
「…そうか。」
何も聞かずに、一言だけ応えた。
雛森は泣きながら何度も鼻を啜った。
「ばーばに、ばいばい、いえなかったよ、ばーばに…。」
子供のようにぼろぼろと涙を流す彼女の頭を、少し背伸びをして撫でた。
ばーばにさようならと言えなかった。それはとても重い意味を持っていた。
彼女に、言葉に出来ないほどのありがとうを、まだ言い尽くしていなかった。