246.責任
「日番谷君のせいだ。」
責任転嫁もいいところ。
ぼろぼろ泣かれてこちらはたじたじだというのに、追い討ちもいいところである。
「なんでだよ。」
極力優しくいったつもりだった。しかし、彼女の涙は三倍速。
溜息をつきながら右手で持て余す銀色の指輪が、呆れながら光っていた。
247.モンスターハウス
キャー。
嬉しそうに悲鳴をあげて男に抱きつく女が目の前に居る。
はっきりいって、怖くなどない。
「モンスターハウス」と名のついた、つまりはお化け屋敷だ。安っぽい設置に、学生らしい少年が被り物をしておどかしてくる。時給幾らなのだろうか、などと考えてしまうほど、子供だましなつくり。
なのに。
ひっしりと半なきでひっついてくる彼女を、日番谷は見上げた。
ここまで怖がってくれれば、きっとバイト少年たちは涙を流して喜ぶに違いない。
今日は暑いな。
そう思った、初夏。夏はまだまだ、これからだ。
248.背伸び
つま先で立って、君を精一杯強く抱きしめた。
届かない距離を埋めることは、とても難しくて、それでも、少しでも埋めたくて。
数センチづつ。
数ミリづつ。
精一杯の背伸びで、君を捕まえる。
249.そばにいて
泣きながら君が言った言葉が、エンドレスリピート。こっちまで泣きそうになってくる。
傍にいて。
君の言葉が、エンドレスリピート。ぐるん、ぐるん。
それでも足は進んでゆく。ぐるぐる回る言葉と裏腹に、真っ直ぐ迷い無く進んでいく。
そばにいたい。
泣きながら心が言った言葉には、耳をふさいだ。
250.面
「めーん。」
間の抜けた声だけれども、動きは見事だった。
雛森は唇を噛んだ。力の差。
「ばーか。」
ぼーっとしすぎなんだよ、といいながら、日番谷は竹刀で自分の肩を叩いた。
木刀でしてほしい。そんな彼女の願いは、当然のように却下された。
竹刀で一本とれたらな。
木刀目指してもう半月。悔しさは募るばかりだ。
「もういっかいっ!」
竹刀を構えなおす彼女に、日番谷は軽く苦笑いをした。
彼女はきっと、一本取るまで止める気はないのだろう。かといって手を抜けば、確実にバレる。雛森はそういうところに敏感な女である。
「今日はもう、終い。」
それだけいって、日番谷は竹刀を置きっぱなしに道場をさっさと去っていってしまった。
「日番谷君のいじわるう!」
叫びながら、雛森は竹刀を慌てて片付け、日番谷の後を追う。
ひたむきの、その、先にあるものが、痛かった。