251.ほしい?
「ほしい?」
にぃっと笑って、莫迦にした笑顔。
思わずむっとする反抗期。
「別にっ」
ぷぃ、とそっぽをむくと、へーっとニヤニヤした声が後ろからきこえる。
ずるい。ずるいとおもってるのに、やっぱり負ける。
くるりと勢いよく振り返り、不意打ちでちゅう。
「くれなくても、とるもん。」
252.阿吽(あうん)
世の中には阿吽の呼吸というものが存在する。
はっきりいって、あの二人の呼吸は全くそろわない、と乱菊は実は内心思っていた。
雛森が嬉しそうに雲を指せば、日番谷は居眠り。
せっかく二人の休みが会えば、雛森が風邪をひく。
まったくバラバラのペースで、バラバラに生きている二人。
不思議。そう思っているとき、突然目の前に走りこんできた雛森がこけた。
ずるっ。
その音に続くはずの、どしゃんという擬音は聞こえない。
(こんなタイミングだけ、ばっちりなんだから。)
飄々とした顔で毒付く上司と、その腕の中で顔を真っ赤に染めながら口を尖らす同僚とを交互に見やり、やけちゃうわあ、と乱菊は業とらしく溜息をついた。
253.堕ちる
おちる。おちる。おちる。
羽が、確かに生えていたはずの二本の羽が、もげ落ちる。
嗚呼、おちる。おちる。おちる。
両手を広げて、彼女は笑った。
莫迦野郎、邪魔だ、退け。必死になって叫んだ。
受け止めてあげるよ。
莫迦、そんな情けない事できるかよ。そう言ったのに、彼女はどかなかった。
おちる。おちる。おちる。
彼女の腕の中で、お前のせいだと毒づいた。
彼女は笑って、そうだよ、と応えた。だって、一緒に街を歩きたかったんだもの、と。
254.サラダ
日番谷は、サラダが嫌いだ。
なんとなく、意外なイメージがある。なんでも好き嫌いなく、無表情にもそもそと箸を口に運ぶようなイメージ。
しかしまあ、食卓にだされれば残さず食べる。ドレッシングが更に苦手なので、生でもぐもぐと食べる。
サラダは好きだが、生では食べれない雛森はいつも凄いなあと思う。
そんなことを考えながら、やっぱりもそもそと食べている日番谷をじいっと見つめていた。
何かに似ていると先刻から思っているのだが、どうも出てこない。
(あ)
ぽん、と靄が晴れる。似ている。
だから余計、幼少から知っていたはずなのに、サラダが苦手な彼に違和感を感じるのだろう。
彼は、白兎。
ふふっと思わず笑うと、彼が顔を上げた。口にいれたレタスが、少しだけ出ている、いつもは見れない間抜けなポーズ。
にこにこ笑っていると、彼は其れを飲み込んだあとになんだよ、と訝しげに尋ねてきた。それでも教えてあげない。
ふんわりふわふわ、白兎。
255.リング
ショーウィンドウに飾られた、シンプルな指輪。思わず、引き寄せられた。
白銀の、少し太めのリング。ほわわあ…。思わず目が輝く。
しかし、つかの間の夢は直ぐに潰える。
値札には、0が二つほど多かった。副隊長として働く身として決して不可能な数字ではないが、つけていく場所もないのにと思うと、諦めるしか道はないようだった。
眉尻を垂れて、苦笑いをしながら溜息をつく。そのくせ、足はショーウィンドウから一歩も離れようとしない。
定員がこちらに向かってくるのが見えて、慌ててその場を離れた。冷かしです、なんて言える筈もない。
ぶらりとそのまま街に出て、必要なものを買い揃えてから再び同じ道をとおった。
もう指輪は無くなっていた。悲しい気持になった。
ほしいとおもったら、迷っても手に入れないと、絶対に後悔するわよ。
よく松本にそういわれてしまうが、優柔不断でそんな風にはなかなかできない。
吹き付けてきた風が寒くて、肩をすくめて足を早めた。
手ニ入レナイト、絶対ニ後悔スルワヨ。
ぐるぐると、その言葉がめぐる。
ぎゅっと、下唇をかみ締めた。