261.コンビニ

「24時間営業してなさーい!」

 酔っ払った雛森にわけのわからない言葉と共に背中にパンチを食らいながら、日番谷はよろよろと歩いた。

「意味わかんねえよ、ばーか。」

 思わず憎まれ口を叩く。
 部屋に帰れなくなるほど飲むなというのだ。別に重いわけではないが、流石に自分より身長の高い者を背負うというのは、少し、バランスが良くない。

「わかりなさあーい、莫迦シロちゃあんっ!」

 酔うと、彼女は『シロちゃん』と『日番谷君』の言い分けが出来なくなる。最早反論する気も失せ、黙々と日番谷は歩を進めた。
 元々酒の弱いくせに、何故今日に限って一人酒なんて洒落込んだのだ。…しかも、洒落にならないくらい酔っ払う程。

「…しろちゃーん…黙っちゃやー…。」

 情けない声と共に、急に雛森がぼすっと体重を預けてきた。重心が前に移動し、思わずつんのめりそうになる。

「何喋れっていうんだよ。」

 背中にあたるやわらかいものに、思わず頬を赤らめる。情けないと日番谷は内心毒づいた。

「24時間…えいぎょー…。」

 虚ろな声になりながらも、意味の通じない言葉を発しつづける雛森に、日番谷は仕方無しにわかったよと呟いた。
 ふにゃあと柔らかい奇声が聞えたかとおもうと、3秒もたたぬうちに寝息にかわった。のび太かお前は、とゆすり起そうとして思いとどまった。

 一人酒の理由も意味も全くわからず終いに終わったが、布団に彼女を入れるまでに一つだけ分かったことがある。
 どうやら、女王様は、「日番谷冬獅郎」が24時間営業でないとお気に召さないらしい、ということ。


262.ハイウェイ

 飛び出そうハイウェイ
 行く先は一つであるからこそ
 飛び出そうハイウェイ

 そんな道なら、譲ってやるよ。


263.散歩

「きもちいーねー!」

 幸せそうに雛森は言うが、隣の日番谷は身をちぢませ全力で嫌気の差した顔をしている。
 それも致し方ない。季節は2月、指も凍える。
 何故並木道などをこうも急に歩きたくなるのか、日番谷には理解できない感覚だった。

「好きだな、お前も。道凍ってんじゃねえか」

 寂しそうな枯木を愛しそうに見つめる彼女に、日番谷は出来るだけ嫌味にならないように毒づいた。
 さみい、と呟く彼を振り返り、雛森は笑った。

「あたしはインドア派だよ?」

 そんなわけがあるかと日番谷は彼女を見返した。

「あぁ?何処」
「でもね」

 台詞をかぶせられ、日番谷はむっとした顔を一瞬だけした。
 しかしそれが本当の怒りでないと知っているから、雛森は気にもしない。

「日番谷君といっしょになら、いろんなもの見て、いろんなこと聞いて。いろいろ感じたいなって思うの。」

 唐突な告白紛いの台詞に、日番谷は数秒唖然とした後、慌ててマフラーに顔を埋めた。

「あー、さっむいなあ。」

 雛森の台詞が。そう隠された言葉の意味を汲み取って、雛森は眉を下げた。

「ひどいなあ。」

 赤いくせに。言葉にされていない言葉を聞き取って、日番谷は不機嫌そうに雛森を睨んだ。その睨みが力ないことなど承知の上で。

 繋いだ手は、いつもより8割増しで暖かかった。


264.自転車

 足が攣りそうな位、必死で腰を浮かせて漕いだ。
 立ち漕ぎ禁止、と叱る彼女の顔が脳裏を掠めたが、気にはしない。

 きっと、あと、もうすこしで、ほんものがぼくをしかってくれるから。

 きっと、ぜったい。

 汗ばんだ右手を裾で拭いて、ハンドルを握りなおす。
 大丈夫、まだ間に合う。

 きっと、ぜったい。


265.壊れ物注意

 触れたら壊れてしまいそうなその肌を見た瞬間、沸き上がる焦燥を感じた。慌てて手をひっこめる。

いけない、いけない、まだいけない。

 自分を諌めていると不思議そうな漆黒の瞳と目があった。

いけない、いけない、いけない、いけない


  僕ガ壊レテシマウ

  僕ガ壊シテシマウ










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