276.帰り道
きらりと、其れは美しく光った。
美しかった。白い肌に流れる雫は、光を受けて神々しく輝いていた。
細めた目からか、余計涙が勢い良くこぼれた。次々にこぼれてゆく。幾度か見たその涙は、何時見ても勿体が無いとおもった。
こぼれてゆく其れを、全て宝石として留めておければいいのにと。
君が、あまりに綺麗に泣くから、僕は思わず笑った。
笑うと、酷くくすぐったい感触がした。
驚いたように君が目を見開いた。
不思議そうに僅かに首を傾げる彼女に、更に笑いが溢れてきた。
クク、と喉の奥で笑うと、彼女もつられて微笑み、そして声を出して笑い始めた。
やだぁ、何笑ってるのよ、と彼女は笑いにかき消されて言葉にならない声で言った。
あはは、と大きな笑い声が重なりあう。笑いすぎたせいか、じわりと、目尻に涙が滲んだ。目尻を擦ると、やはり指が濡れた。
君がつられて笑うから、嬉しくて僕は思わず泣いた。
いひひ、と彼女は照れくさそうに笑った。
どうしようもなく愛しかった。
「帰ろうか」
少しばかり、態と低めに声を出した。
「…うん」
煌くような笑顔で、君がそう云った。
277.手と手
二人手を繋いでゆけることが幸せだと
あの頃確かに信じてた。
「ね」
「うん」
会話にならない言葉のキャッチボール。
柔く握られたこの手を、一生離しはしないと、ただ神に誓ったのに。
278.水玉
きらり きらり
水玉模様の君が踊る
きらり きらり
水玉模様の君が振り返る
「はやくおいで」
彼女の足元で水がばしゃんと跳ねる。
夕日が反射し、海が光る。
まぶしくて少し目を細める。頬が緩む。
「濡れるぞ、莫迦桃。」
279.恋心
あのね、あのね。
幸せそうに唇に人差し指を当てて、
ヒミツだよ、ないしょだよ、誰にもいわないでね、
そう笑って、きらきらと輝いて
「だあいすき」
しってるよっていったら、君はおこるだろうか。
280.毛布
「ぶえっくしょん!!」
最早女のくしゃみではない。ぽかんと見つめていると、盛大に鼻を啜って唸りだした。
「…おまえ、もうちょっと口を覆うとかなんとかしろよ…。」
呆れ声に反応し、顔を上げた彼女の鼻は真っ赤だ。鼻風邪だろう。
思わずでそうになった溜息を押しとどめる。
「ほら、貸してやるから。」
ボストンバックから引きずり出した毛布を投げると、慌てて彼女はそれを受けいそいそと体に巻き始めた。
寒いなら早く言えばいいのに。
「流れ星、こないかなあ。」
拗ねたように口を尖らす彼女の頭上に広がるのは、満点の星。
はっきりいって、望遠鏡なんて必要無かった。一つの星を拡大するよりも、この盛大なる星々の光を浴びるほうが、よっぽど心に染みた。
「莫迦言え。」
鼻で笑うと、ぶぅ、とやっぱり可愛くない声が聞えた。
「大体、何を願うんだよ。」
「日番谷君とずーっと一緒にいられますように。」
困らせるために言おうとした台詞に、間髪入れずにこっぱずかしい台詞が返ってきておもわず閉口する。
ここで今言い負かされると、今後主導権が向こうに渡ってしまう気がすごくする。はっきり言って、それだけは御免だ。
にへへ、と緩んだ顔をしながら、勝利の余韻に浸っている彼女に、仕方が無いのでこっぱずかしい台詞を返す。
「そんなの、星じゃなくて俺に願えよ」
流れ星は、二人の瞳には映らない。