291.タイムカプセル
土に沈んだ記憶の中に
君の姿を見つけた
両手で掬って
泥を払おうとしたら
指の先から君が落ちた
なんども、なんども、繰り返して
やっと綺麗になった君が
どうしようもなく悲しかった
いつかまた掘り返す時のために
僕は、君をまた
土に埋めた
292.ウィンカー
ちかっ、ちかっ
点滅させたウィンカーを無視して、思わずハンドルを切った。
もちろん、大音量でクラクションを鳴らされた。思わず心の中でごめんなさいと叫ぶ。
しかし、止まってはいけない気がした。
5年ぶりに見たその背中を、見間違っているかもなんて発想はこれっぽっちもなかった。
「雛森!」
ふりかえる君の瞳に、泣きそうな俺の顔が映った。
293.包装
「包装はこれでいいですか?」
業務的な口調で聞く店員に、あ、はい、とどもって返事をした。
どうみても男性へのプレゼントといわんばかりの品が恥ずかしく、思わず俯いて作業を待った。
あっというまに目の前の箱はかわいらしくラッピングされる。手早いものだ。ああ、ラッピングを習ってみたりしてもいいなあ、とぼうっ。とおもう。
「はい、どうぞ。」
ふと現実に引き戻され、慌ててそれを受け取る。
大事に大事に其れを両手で包み、抱きしめた。
「またのご利用をお待ちしております。」
ぺこりと頭を下げると、一目散に逃げ出した。
顔から火がでそうな感覚を覚えながら、頬に冷たい冬の風を受けた。
294.カリスマ
カリスマ性、というのはあるものであって、人は技術や能力だけでは測れない一線を超えた部分に何かを求める。
それがあの人にはあった。
それの根本が例え、澄み切った穢れなき悪意であったとしても。
父のように慕っていた。それと同時に、淡い恋心も、確かに抱いていた。恋仲になった二人など、想像も出来なかったが。
壊れた夢想に縋りつけないで、地に堕ちた。
憎いとか悲しいとかは思わなかった。まだ信じてるなんていう気持にもなれなかった。疲れた。考えるのを、感情を作り出す事を、止めた。
295.チンピラ
「見事なハマり役だと思うんだ」
笑顔でそう言う彼に、恋次は突っ込みをする気力すら起きなかった。
おとなしく引き受けたものの、まず撮影の必要性を見つけることができずに溜息をついた。
(ドラマの撮影なんてそんな、一体誰が見るんだよ…。)
虚しい心の呟きを繰り返しながら、薄っぺらい台本を握り締めた。