死にたい?
 そう言って貴方は うなだれるアタシの顔をのぞき込んで笑った。

「死にたいん?」

 酷く残酷なその台詞を 無垢な声で彼はくり返した。

 その台詞が あたしを生かし続けていたのだと 知っていたのか否かは定かではないけれど

「…た…く…な…」
「乱菊 ちゃんといわな分からへんよ」

 残酷な強要に あたしは必死に応えた。

「−死に た く ない」

 そう言うと 彼は必ず微笑んだ。
 何時もと違う微笑みを 必ず見せてきたのだ。

「そか。ならちゃんと食べなアカンな。」

 そう言ってギンは 何十回と乱菊が吐き出した粥を 再び口に入れさせた。

「そう。そや…噛んで。急がんでええから ゆっくり…うん…飲んでみ…」

 そう 優しく諭す様に 何十と繰り返される声に励まされながら  こくんと乱菊は其れを飲み込んだ。

「そう。ええ子や。そのまま動かんとき…。うん 暫く横にならん方がええ。」

 随分となれた雰囲気で ギンは乱菊の髪を撫でた。

  まるでお母さんみたい。

 …実際に母親というものがそんなものなのか 乱菊の記憶にはもう無いが 多分こんなんだろうといった固定観念にはぴったりと当てはまっていた。
 傍に居て欲しい人。
 傍に居て落ち着く人。
 大切な 人。

「…うん そろそろ寝転がって良いかな。ゆっくりやで。あんまり頭動かしたらあかん…。」

 出会った頃には幼くて 乱菊と同じようにやわらかかったギンの手は何時のまにか角張り始めていた。
 指先も長くなりはじめている。

 そっとその少し冷えた手を乱菊は不器用に掴んだ。

「乱菊?」

 その手を引っ張って 乱菊は自分の額の上に載せた。

「…何 どないしたん?」
「…気持ち良い…。」

 ギンよりもずっと平均体温からして高い乱菊に その掌はひんやりとして気分の良いものだった。
 そっと目を閉じると それでも其処に彼の低い体温を感じることが出来る事に安堵した。

「…食べる。」
「食べれる?無理してまた吐いたら意味ないねんで?」
「…大丈夫そう。」
「そか。食べれるときに食べといたほうがええな。」

 ギンの左手を掴んだまま 乱菊は「あ」と口を開いた。

「…なんや 甘えん坊さんやな。」
「今ぐらい甘えたっていいでしょ。」
「…ま せやな。ええよ ずぅっと甘やかしたるから。」


 嗚呼 溶けるまで甘やかして。












::後書::

酷くおかしなものになってしまいました…;
まぁいいや。(よくない)
この作品で頭をひねっていたら ギン乱の妄想力が1上がりました。(笑)